第42話 神の溜息
荘厳な神殿の中で、神々たちが食卓で談笑していた。
テーブルの上には大きな水晶球が置かれており、地獄での様子が映し出されていた。混乱する法廷の様子に困惑する神々たち⋯⋯一人の神が思わず、ぽつりと本音のようなものを吐露する。
「いや、あんなの⋯⋯天国でも収容したくないよ」
次の瞬間、顎鬚を生やしゼウスのような風貌をした主神とお思しき人物、いや、神が大きな溜息をつくと、こう言った⋯⋯
「閻魔大王とは幼い頃からの親友だけど⋯⋯悪いけど、受け入れは断るわ」
一同、首を縦に振り大きくうなずく。
天使の翼をもぎ取る事件が発生するなど、天国でもメンヘラは大問題となっていたのだ。以降、ゼウスのような風貌をした主神を⋯⋯文字数の節約と便宜上の理由から「神のおっさん」とする。
神のおっさんは水晶球に手を伸ばし、スマホのフリック操作の要領で、映し出されるビジョンを次々と切り替えた。そして、水晶球に法廷の床に落ちていた⋯⋯例の書類が映し出されたところで手を止めた。
「あちゃ~これは恥ずかしいわぁ」
他の神々たちも、この言葉に興味をそそられ、水晶球に顔を近づける。そして、次々と「ぷっ」と笑いを堪える息が吹かれた。
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ジェーン・パックマンは、床に落ちていた問題の書類を目にすると、その内容が気になり拾い上げた。混乱する法廷⋯⋯
閻魔大王は書記官と何か話し込んでいる。警吏たちもメンヘラ女の連れ出しで精一杯で、弁護士は気絶しており、検事や傍聴人が介抱をしていた。
人の目を盗むように、書類を胸元にしまい込んだ。
「コピーを取らせてもらったら、後で返しますよ⋯⋯」
パックマンは法廷を後にすると、閻魔大王からの直接の依頼を実行すべく、警吏たちの後に続いた。
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迫撃砲弾の雨あられの攻撃を受ける千夏⋯⋯
訳が分からなくなり絶叫する。次の瞬間、目の前の丘の上から、スコープの反射する光が見えると同時に、額を何者かに撃ち抜かれた。
そして、脇腹を力強く蹴られたような衝撃を受けて目が覚める。
「やかましい!今、何時だと思ってんだ!」
時刻は深夜の二時だった。
岩鉄がベット脇に立っており、千夏を見下ろすように睨んでいた。