第42話 神の溜息

投稿日 2024.01.19 更新日 2024.01.19

 荘厳な神殿の中で、神々たちが食卓で談笑していた。

 テーブルの上には大きな水晶球が置かれており、地獄での様子が映し出されていた。混乱する法廷の様子に困惑する神々たち⋯⋯一人の神が思わず、ぽつりと本音のようなものを吐露する。

「いや、あんなの⋯⋯天国でも収容したくないよ」

 次の瞬間、顎鬚を生やしゼウスのような風貌をした主神とお思しき人物、いや、神が大きな溜息をつくと、こう言った⋯⋯

「閻魔大王とは幼い頃からの親友だけど⋯⋯悪いけど、受け入れは断るわ」

 一同、首を縦に振り大きくうなずく。

 天使の翼をもぎ取る事件が発生するなど、天国でもメンヘラは大問題となっていたのだ。以降、ゼウスのような風貌をした主神を⋯⋯文字数の節約と便宜上の理由から「神のおっさん」とする。

 神のおっさんは水晶球に手を伸ばし、スマホのフリック操作の要領で、映し出されるビジョンを次々と切り替えた。そして、水晶球に法廷の床に落ちていた⋯⋯例の書類が映し出されたところで手を止めた。

「あちゃ~これは恥ずかしいわぁ」

 他の神々たちも、この言葉に興味をそそられ、水晶球に顔を近づける。そして、次々と「ぷっ」と笑いを堪える息が吹かれた。

     :

 ジェーン・パックマンは、床に落ちていた問題の書類を目にすると、その内容が気になり拾い上げた。混乱する法廷⋯⋯

 閻魔大王は書記官と何か話し込んでいる。警吏たちもメンヘラ女の連れ出しで精一杯で、弁護士は気絶しており、検事や傍聴人が介抱をしていた。

 人の目を盗むように、書類を胸元にしまい込んだ。

「コピーを取らせてもらったら、後で返しますよ⋯⋯」

 パックマンは法廷を後にすると、閻魔大王からの直接の依頼を実行すべく、警吏たちの後に続いた。

     :

 迫撃砲弾の雨あられの攻撃を受ける千夏⋯⋯

 訳が分からなくなり絶叫する。次の瞬間、目の前の丘の上から、スコープの反射する光が見えると同時に、額を何者かに撃ち抜かれた。

 そして、脇腹を力強く蹴られたような衝撃を受けて目が覚める。

「やかましい!今、何時だと思ってんだ!」

 時刻は深夜の二時だった。

 岩鉄がベット脇に立っており、千夏を見下ろすように睨んでいた。