第40話 閻魔大王

投稿日 2024.01.17 更新日 2024.01.17

 ここは地獄の法廷――

 裁判官席に座る閻魔大王、今、ある初老の男性の裁きを行っていた。

「そっか、辛かったんだね」

 閻魔大王は男性に同情の意を示す。

 末期ガンの苦しみから一刻も早く逃れるため⋯⋯この男性は、自らの意思で命を絶ってしまっていたのだ。

 自殺は大罪であり、原則は地獄行きの事案となる。

 しかし、閻魔大王もそこまで非情ではない。生前の行いの良さから、情状酌量の余地ありと認め、男性に天国行きの判決を言い渡した。

 男性は閻魔大王に深々をお辞儀をした。

 閻魔大王は調書をめくりながら、男性の素性も確認した。

「10年前に奥さんに先立たれていたんだね。天国で待っているだろうから、すぐに会いに行きなさい」

 号泣する男性⋯⋯

「はい、じゃ~あ、次!」

 次に、法廷に現れたのは⋯⋯

 目が死んでる女性だった。いや、もう死んでるんだけど、何か嫌な予感を感じさせるものだった。

 とりあえず、検察官が立ち上がると、棒読みで罪状を読み上げる。

 弁護士も仏面だ。

 まるで、適当に請け負ったような感じだ。そして、法廷内は一気に脱力ムードに包まれ始めた。

 閻魔大王は調書を目にした瞬間⋯⋯また、メンヘラかと呆れる。

「君、死因は自殺だけど⋯⋯なんで、死のうと思ったの?」

 まぁ、いちおう、抗弁の機会を与える。

「なんか、生きるのがつまんなくて⋯⋯」

「理由はそれだけ?」

「うん」

「いじめられていたとか、親と何かあったとか⋯⋯何か悩みでもあった?」

「ぜんぜん」

「じゃ~あ、なんで死のうと思ったの!?」

「死んでみたかったから⋯⋯」

 調書をさらに読むと、ネット掲示板での誹謗中傷を中心とした悪事が記録されていた。

「君、このままだと地獄行きになるけど⋯⋯」

「えー!なんで?私、何も悪いことしてない!ただ、死んだだけ」

「いや、してるでしょ!誹謗中傷はダメ!」

 次の瞬間、弁護士がおもむろに立ち上がる。

「裁判長、発言よろしいでしょうか?」

「どうぞ」

「彼女にはこうなった理由があります」

「どんな理由?」

 弁護士はある資料を提示して来た。つづく⋯⋯