第40話 閻魔大王
ここは地獄の法廷――
裁判官席に座る閻魔大王、今、ある初老の男性の裁きを行っていた。
「そっか、辛かったんだね」
閻魔大王は男性に同情の意を示す。
末期ガンの苦しみから一刻も早く逃れるため⋯⋯この男性は、自らの意思で命を絶ってしまっていたのだ。
自殺は大罪であり、原則は地獄行きの事案となる。
しかし、閻魔大王もそこまで非情ではない。生前の行いの良さから、情状酌量の余地ありと認め、男性に天国行きの判決を言い渡した。
男性は閻魔大王に深々をお辞儀をした。
閻魔大王は調書をめくりながら、男性の素性も確認した。
「10年前に奥さんに先立たれていたんだね。天国で待っているだろうから、すぐに会いに行きなさい」
号泣する男性⋯⋯
「はい、じゃ~あ、次!」
次に、法廷に現れたのは⋯⋯
目が死んでる女性だった。いや、もう死んでるんだけど、何か嫌な予感を感じさせるものだった。
とりあえず、検察官が立ち上がると、棒読みで罪状を読み上げる。
弁護士も仏面だ。
まるで、適当に請け負ったような感じだ。そして、法廷内は一気に脱力ムードに包まれ始めた。
閻魔大王は調書を目にした瞬間⋯⋯また、メンヘラかと呆れる。
「君、死因は自殺だけど⋯⋯なんで、死のうと思ったの?」
まぁ、いちおう、抗弁の機会を与える。
「なんか、生きるのがつまんなくて⋯⋯」
「理由はそれだけ?」
「うん」
「いじめられていたとか、親と何かあったとか⋯⋯何か悩みでもあった?」
「ぜんぜん」
「じゃ~あ、なんで死のうと思ったの!?」
「死んでみたかったから⋯⋯」
調書をさらに読むと、ネット掲示板での誹謗中傷を中心とした悪事が記録されていた。
「君、このままだと地獄行きになるけど⋯⋯」
「えー!なんで?私、何も悪いことしてない!ただ、死んだだけ」
「いや、してるでしょ!誹謗中傷はダメ!」
次の瞬間、弁護士がおもむろに立ち上がる。
「裁判長、発言よろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「彼女にはこうなった理由があります」
「どんな理由?」
弁護士はある資料を提示して来た。つづく⋯⋯