第19話 シシルの霊視
映画を見に行くと言って、あまり早く帰宅すると変に思われる⋯⋯
夕菜は駅前百貨店で少し時間を潰すことにした。先日、父と母に連れられて行った百貨店とは別の百貨店だ。
店内をぶらぶらと歩く。
次、父に誘われた時⋯⋯何をおねだりしようか、嬉しくなるような思案に耽りながら、ウィンドウ・ショッピングを楽しむ。
「やっぱり、ダイブ界にもこう言う場所、欲しいわね⋯⋯」
自身のダイブ界作成の参考材料としても格好だった。
シシル曰く。理想のダイブ界を作るためには⋯⋯
常日頃から、現実世界でそのような楽しい雰囲気を味わえる場所へ赴き、全身で体感しておく事も大切との話だった。
途中、夕菜は洗面所へ立ち入り、占い館で買った指輪を鏡の前で付けて見ることにした。
「なんか⋯⋯魔術師か占い師にでもなった気分」
夕菜はそんな小さな悦に浸った。
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一方、占い館のシシルは⋯
テーブルの上に水晶球を置き、霊視のような仕草をしていた。
「今、駅前の百貨店にいるのね」
シシルは自身と夕菜が持つ指輪とのチャネリングを試みた。これなら当面安心と、一端、そこで霊視を終える。
次の瞬間、シシルのスマホに着信音が鳴る。
「浮き輪からね⋯もしもし」
浮き輪からの折り返しの連絡が入ったらしい。
「そう、そちらでも私の念の入った指輪を把握できるのね。よかった」
どうやら、浮き輪側でも⋯⋯夕菜の指輪を感じ取ることができるようだ。この二人は一体何を企んでいるのか?
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ルンルン気分で帰宅する夕菜⋯⋯
玄関の扉を開けた瞬間、そこには幼馴染である遠井穂都がおり、夕菜の母が腕を組み、怪訝そうな表情をして立っていた。
「あら、穂都ちゃんと一緒に映画に行ったんじゃないの?」
「えっ!!あ!!これはぁあああ!!」
キョトンとして、困ったような笑みを浮かべる穂都⋯⋯
タイミング悪く⋯⋯夕菜を遊びの誘いに来たようだった。とりあえず、この後、穂都と一緒に再び外出することになる。
「後でじっくり話を聞かせて貰いますからね」
と、母の言葉が背中に刺さる。
夕菜は穂都に手を引かれ玄関を出た。