第05話 思念界への誘い
タルパのネットコミュニティーは独特だ⋯⋯
タルパ界隈の住人なら、Xアカウントは二つ以上持つのは常識だ。
一つはタルパ所持者としての本人専用⋯⋯そして、もう一つ以上はタルパ専用となる。夕菜はどうやら⋯⋯タルパ界隈の重鎮である、倉持文子なる人物が所持しているタルパのアカウントから連絡を受けたようだ。
「ええ!!これって⋯⋯なりきり界隈のと何が違うの?」
困惑する夕菜⋯⋯
てっきり、タルパ界隈のXアカウントは、すべてタルパ所持者本人のものかと思っていたのだ。
とりあえず、送られて来たDMを読む⋯⋯
中身を確認して見てみると、中年のおっさんくさい文体をしており、少し引いたが⋯⋯明晰夢でタルパを作り出すための方法について書かれていた。
倉持文子、曰く⋯いや、彼女のタルパ、ゴンによると⋯⋯
明晰夢でタルパを作りたい場合、タルパのみならず、夢の舞台となる架空の世界も考えておく必要があり、その中での出会いのシナリオまで事前に決めておいた方が、タルパは現れやすくなるとのことだった。
確かに⋯⋯
一般的な明晰夢は、夢を見ている途中から夢と分かるだけに過ぎない。
例えば、学校にいる夢を見ていて、途中から夢と気づき、後は夢の中の学校で、好き勝手放題しているだけだ。
夢の舞台設定や登場人物まで操作するのは、実は難しい⋯⋯
もちろん、中にはそこまでできる人はいる。
倉⋯⋯いや、ゴンと言うタルパは、それを実現するための訓練方法を、夕菜にアドバイスして来たのだ。
そして、夢の舞台となる架空の世界を⋯⋯
思念界と言う。
倉⋯⋯いや、ゴン曰く。
タルパ実践者は一人一人が独自の精神世界を構築しており、それを「国」と呼び、すべてその中で完結されるものだそうだ。
「素晴らしいわ⋯⋯そっか!先に国を作る必要があるのね!」
夕菜は、幼い頃に親から読み聞かされた⋯⋯不思議の「国」のアリスの物語を彷彿とする助言に感激した。
結局、夕菜はその日一日⋯⋯
自室に閉じ籠り、幼い頃に夢見たおとぎの国の風景や地図を、スケッチブックへ夢中になりながら描き続けた。思念界はダイブ界とも呼ばれ、英語ではWonderlandと表記されるものだった。