タルパ戦争 File59 虎の追跡
鏡月は迷わず開かれたドアの中へ飛び込んだ⋯⋯
レゴは鏡月の乗車を確認すると、弾切れになったショットガンを助手席へ放り投げ、懐から素早くS&W M36を抜き取り、今度は迫り来る兜海老の方に狙いを定めて射撃を始めた。
兜海老がよろけたタイミングで運転席へ滑り込むように座る⋯⋯
「しっかり掴まってろ!行くぜ!」
レゴはアクセルを目一杯踏み込んだ。
「貴様、浮島君を知っているな?タルパ持ちの上にどこかで見覚えのある顔だとは思っていたが⋯⋯貴様は⋯⋯」
「ふっ、手間が省けた。後であんたのところへ行こうと思っていたところじゃ」
「なら話は早い。さっき、浮島君と連絡を取り合ったが⋯⋯明日の金曜日にも⋯⋯なっ!?なんだ!!」
「存外としつこいヤツじゃな」
後方から一台のティーガーが猛烈な勢いで追って来ていた。砲塔ハッチから赤鬼の能面を付けた男が身を乗り出していた⋯⋯兜海老である。
京都の郊外でキャタピラーの走行音が鳴り響く⋯⋯
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浮島の実家の神社⋯⋯
住宅を兼ねた社務所で、遅めの夕飯をとる浮島の父と母⋯⋯
「あら?地震かしら?」
「地震にしては変じゃないか?」
ちゃぶ台の上に並べられた料理の皿が振動で震える⋯⋯直後、裏路地に面した側の窓に巨大な車両の影が映る。
「クレーン車か?こんな時間に工事か?」
浮島の父が立ち上がり窓を開けて外の様子を見ようとした瞬間⋯⋯
大きな爆発音のようなものが鳴り響き、これに驚いた浮島の父が後ろに倒れ込む。再び立ち上がり、慌てて窓の外を見ると⋯⋯主砲から硝煙を立ち込めた戦車が止まっていた。
次の瞬間、玄関を叩く音がする。
「なんだ!?次から次へと⋯⋯」
玄関の扉を叩く主は声からして心霊タクシーのレゴだとすぐにわかった。
扉を急いで開ける浮島の父⋯⋯そこには気を失いかけている鏡月を肩で支えるレゴが立っていた。
どうやらタクシーは砲撃で大破したらしい。
「きゃあーーー!!あなた!!」
次の瞬間、茶の間から浮島の母の悲鳴が鳴り響く⋯⋯外に停車していた戦車が、主砲を社務所に向け始めた。浮島の父は怒りに震え、全身からオーラをめらめらと放ち始めた。