タルパ戦争 File56 総統閣下シリーズと西部警察
静寂とした竹林の中で二人のタルパーが対面する。
どうやら、兜海老の様子から友好的な感じには思われなかった。鏡月に対して、明らかに間合いを取りながら話しかけて来ていたのだ。
次の瞬間⋯⋯
兜海老は異様な空手の構えを見せつけて来た。
「なんじゃ?わしは強いぞ!」
「ドツイタルの科学は世界一ィイイイイイイ!!」
兜海老はそう叫びながら、股間から銃身を短くしたグロスフスMG42を突き出し、鏡月の方に向けて来た。威嚇するように弾帯を両手で大きく広げる。
直後、電動のこぎり音のような凄まじい発砲音が鳴り響く。
鏡月はバク転を繰り返しながらすべての銃弾をよけ、そのまま竹林の外へ走り抜けた。グロスフスMG42の射線と重なった竹は⋯⋯
次々と一瞬で破壊され倒れて行く。
鏡月は先程自分が割った岩石の陰に身を隠すと大きな息をついた。
「ぷはぁ、なんじゃ!突然!」
兜海老は不敵な笑い声を上げ、ゆっくり歩きながら鏡月の後を追う。空を見上げると、兜海老に付いていたタルパ⋯⋯ドラゴンの思念体たちが、鏡月を見下ろすように旋回しながら飛翔していることに気づいた。
「このままではやられるな」
鏡月、絶体絶命のピンチである。
しかし、ドツイタルというキーワードには聞き覚えがあった。
「たしか⋯⋯タルパ界隈の誰かのダイブ界の国に⋯⋯国家社会主義ドツイタル労働者党!通称ナチョスか!」
鏡月は目を瞑り、この緊迫する中で少し物思いに耽る⋯⋯
「ニコニコにタルパ界隈をネタに総統閣下シリーズを投稿していたのは⋯⋯こいつか?」
総統閣下はタルパ界隈にお怒りのようですの数々の動画を思い出し、不覚にも軽く噴き出す。
「ふん、くだらない。ならば⋯⋯」
遂に滞空していたドラゴンが降下、鏡月に襲いかかり始めた。
その時である⋯⋯
突然、まばゆいヘッドライドの光が差し込んで来た。
一台のタクシーが激しくエンジンを唸らせながら突進して来て、鏡月の目の前で停車、ドアが開かれた。レゴである。
「乗れ!」
レゴは運転席のドアも開けると、レミントンM31を持って降車、素早く上空に向かって構え射撃を始めた。その雄姿は大門圭介そのものだった。