タルパ戦争 File36 揺れ動く界隈

投稿日 2024.06.16 更新日 2024.06.16

 木口の投稿に敏感に反応するタルパ界隈。

 どうやら、木口さんのタルパが暴走したらしい⋯⋯

 木口さんのタルパが暴走して、木口さんの意識がダイブ界に閉じ込められているらしい⋯⋯そんな情報が飛び交った。

 中には、木口死亡説まで唱える者まで現れた始末である。

 タルパ界隈と言うところは、本質的にはいい加減な場所なのだ。

 この状況を見過ごす事のできない男がいた⋯⋯

 更梨である。

「木口のタルパが暴走?」

 巨大掲示板たらばがにオカルト板を食い入るように見つめ、パソコンの前で考え事をする。前日、自室に出現したUFOらしき球体に対して、正拳突きをしたのは左手であったため、マウスの操作に支障はなかった。

 左腕は三角巾の腕吊状態となっていたが、霊視は右手だけでも行える。

「今度こそ、看破してやる!」

 で、あの後だが⋯⋯

    :

 謎の金属製の球体から幼女の音声が聞こえて来た。

《マイク入ってます!B子中佐!そこの赤いボタン押してください!》

《博士、これって⋯⋯スピーカーにもなるか?》

《赤いボタンを押すとマイクOFFになります!早く!》

《じゃ、このツマミは音量調整か?》

《ああ!!ダメ!!回しちゃダメぇええええ!!》

 うらぁあああああ!!
ガトー公国国歌!!もみの木!!
歌うで!!

 直後、大音量の幼女の歌声が鳴り響く⋯⋯

 警察に通報され、パトカーがやって来るわ⋯⋯

 上下左右の部屋の住人や大家が怒りまくり、更梨の部屋にやって来て、怒鳴り蹴散らされるわ⋯⋯

 散々な目に遭わされた。

 クソガキのビックボイスと季節外れの大音量クリスマスソングが⋯⋯夏の暑さのうざさに拍車をかけ、誰もが神経を逆撫でさせられた。

 更梨は駆けつけて来た警察官に、UFOを見せようと室内に入れたが⋯⋯

 すでにその場から消えていた。

    :

 更梨は下唇を嚙みしめる⋯⋯席から立ち上がると、ベランダに出てタバコに火をつける。

「どうやら、この俺は⋯⋯外宇宙思念体との戦いも余儀なくされそうだ。これは運命なのか?だとしたら⋯⋯」

 そこは⋯⋯

 いつもと変わらぬ東京湾の光景が広がっているだけだった。