タルパ戦争 File35 狂言

投稿日 2024.06.16 更新日 2024.06.16

 木口のタルパ、零が垣間見たものとは⋯⋯

 赤い着物を着た女の子の霊体は、幽界(アストラル界)では壮絶なバトルを繰り広げていたのだ。

 普段は木口の妹、明美の部屋の中で過ごしていることが多いのだが⋯⋯夜になると自宅内を徘徊したり、木口の部屋へ入り、木口の寝顔をじっと見つめていたりする。そして、たまにリビングで零と会話もしていた。

 しかし、ある日⋯⋯

 この世とあの世の中間世界、デスタウンへ繋がる入口へ、この赤い着物を着た女の子が入って行く様子を目撃したのだ。

 零は、初めて見たその光景に驚き、後を追おうとした⋯⋯

 デスタウンへ繋がる入口と言っても、玄関ホールの壁に設置されていた大きな鏡である。零も鏡の中へ入ろうとした⋯⋯だが、結界に阻まれた時のような感触に包まれ、鏡の中へ入ることができず、現実世界へ押し返された。

 ただ、鏡を凝視すると⋯⋯

 かすかにではあるが、鏡の中へ入っていた女の子の様子を見て捉えることができた。その中はおどろおどろしい光景が広がっていた。

 息を呑む零⋯⋯

 すると、女の子がこちらの方に向かって来て、鏡の中から出て来た。

「零、見たわね」

「え、あ、その⋯⋯ちょっと、興味本位で⋯⋯」

 恐怖で体が震える零⋯⋯

「いいわ。許してあげる。でも、次、覗いたら⋯⋯あなたを浄化するわ」

「わ、わかった。ごめん」

 浄化とは⋯⋯

 霊体を消滅させて、魂すら無に帰してしまう行為を指す。

 当然、来世はない。

    :

「零、零?どうした?」

「はっ、あ、ごめん。浩一⋯⋯ちょっと、考え事してた」

「いよいよだ。作戦を開始する」

 木口はパソコンの前に座ると、SNSアカウントを通じて、タルパ界隈に向け、自身のタルパが暴走し始めた旨を伝え始めた。

 そして、木口のその投稿が次々とリツートされ始めた。

 タルパ界隈が騒然とし始める。

    :

 東北へ向かう車中、浮島はその様子をスマホで確認していた。

「いよいよだな。木口君⋯⋯」

 自分が東京へ戻る頃までには⋯⋯タルパ界隈は相当盛り上がっていることだろうと睨んだ。そして、金曜日の夜に決行だ。

 タルパ戦争の始まりである。