タルパ戦争 File34 恐妻家の魂

投稿日 2024.06.15 更新日 2024.06.15

 さらに翌日の火曜日⋯⋯

 早朝、浮島は上野駅へ向かう。昼までに恐山に到着するだろう。

 一方、木口は週末の決行に備え、諸々の準備を推し進めていた。目下の懸案は妹、明美である。

 木口は明美へ国際電話をかける⋯⋯

 プルルル♪プルルル♪カチャ☆

《もしもし、お兄ちゃん!私の命令に従う気になった?》

「なぁ、明美⋯⋯頼むから、俺の話を真剣に聞いてくれ。今度やろうとする事は男と男の友情によるものだ。大切な仲間が自殺した⋯⋯そうだな、言うなれば⋯⋯弔い合戦的なものになるんだ」

《わかった⋯⋯でも、お兄ちゃんの身にもしもの事態が発生したら⋯⋯私、躊躇ずに力を発揮するからね》

「なぁ、明美⋯⋯俺にタルパが憑いているのは見えているよな?そいつにだけは手は出さないで黙って見ていてくれ。作戦の一環でタルパにガチで俺に攻撃してもらう。本物の霊能者に狂言だって見破られないようにするため⋯⋯」

《わかった⋯⋯零君って言ったよね。私の心霊ロボットとたまに会話していたわ。》

「心霊ロボット?もしかして、赤い着物を着た座敷わらしは⋯⋯お前のタルパなのか?」

《正確には変遷型タルパに近い感じのものになるかな⋯⋯でも、独立した意思は持ってない。私が遠隔念力で動かしている感じかな》

「なら、浮島さんの姿は見えていたよな?なんで自宅に女性がやって来たことを疑った?」

《視覚的には見えないわ。ぜんぶ、脳裏のイメージで捉えている。遠視って言うほどかんたんじゃない。難しいわ。あと、浮島って人⋯⋯彼の霊体は女性っぽいわね。その影響もあったかもしれない》

「それってどういうこと???」

《うーん、よくわかんないけど⋯⋯男性であることを後悔しているよな⋯⋯恐妻家の人によく見られる現象ね》

「なるほど⋯⋯わかった」

《あ、そうそう。お兄ちゃん⋯⋯気をつけて!誰かがお兄ちゃんを狙っている》

「俺が狙われている?」

《霊能者っぽい男から霊視されそうになったところ、私が撃退してやったわ!心当たりある?》

「まさか⋯⋯更梨さんだろうか」

《おっけ~♪敵は更梨って男ね。次は⋯⋯》

「わぁあああ!ちょっと待った!攻撃しちゃダメ!」

 木口は妹、明美に指示がない限り動かないよう懇願した。