タルパ戦争 File17 顔のない男
浮島は帰りの電車の中で思案に暮れていた。
作戦を綿密に練り上げる必要がある⋯とりあえず、今週末にそれをよく考えて、週明けの月曜日にも、木口に詳細を提案するつもりだ。
しかし⋯⋯
木口の一件と言い⋯⋯
法政大の更梨の不可解な行動と言い⋯⋯
思わぬ形で表面化した問題⋯⋯いや、浮島の霊能力をもってすれば、いずれも些細なものに過ぎないのだが⋯⋯
そんなちょっとした不確定要素が気になり始めた。
「木口君の件は保留にするとして⋯⋯更梨と言う男は本当に謎だ」
学生の身でありながら、著名なオカルト研究家として広く活動していた。彼の業績はオカルト雑誌モーにも紹介されていたほどである。
しかし、ネット上では顔写真は一枚も見かけない。出身地や出身高などの情報も不明である。男性で法学部の学生である以外、何も分からなかった。
気になる彼のオカルト研究であるが⋯⋯
「彼は霊視が得意らしいな」
浮島はスマホを食い入るように見つめる。オカルト雑誌モーの公式サイトに掲載していった、更梨のオカルト研究に関するページを閲覧していた。
「彼の霊能力がどれほどのものか⋯⋯」
タルパ界隈は玉石混淆の世界である。
本当にどうしようもない者たちが多くを占める世界であるが⋯⋯中には本物もいる。幸い、浮島のものと比べ遠く及ばないレベルのものばかりであったが、更梨は例外と見えるべきだろう。
「何としても事前に彼と接触して確認しておかねば⋯⋯」
電車の座席の上で一人悩む浮島⋯⋯
その一方で、浮島はこうも考え始めていた。更梨との接触が叶わなかった場合を想定したシナリオである。
「やはり、木口君に取り憑いている座敷わらしを利用するか⋯⋯」
しかし、浮島と木口⋯⋯この二人の認識の違いはここから生まれることとなる。親友同士であるが故のものだ。
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「零、彼女の本心⋯⋯浮島さんは見抜いていた?」
「今日はそこまでは見れなかったと思う⋯⋯実験で誰かのところへ押し付けたら⋯⋯そいつは地獄を見ることになる」
「⋯⋯」
「浮島さんに話しておく?それとも⋯⋯」
「いや、この事は浮島さんに内緒にしておこう。すべて僕たちでやろう」