Episode 13 凍空の巨鳥伝説
手が滑った⋯⋯
一発だけなら誤射かもしれない⋯⋯
そう言って⋯⋯いつもミサイルや機関砲を発射する、超問題エースパイロットがいた。ポクシーなるTACネームを持つ名物大尉である。
階級が上であるはずのB子に対して、平気でタメ口をきいてくる男だ。同僚の女性パイロットも平気でナンパする。
そんな話はともかく⋯⋯
ポクシーに誘われる形で艦内食堂へ行くことになった。俺の奢りだと言われフルーツパフェを差し出される⋯⋯
まぁ、それを遠慮なく頂くB子。しかし、その日のポクシーはいつもと少しだけ様子が違っていた。B子がフルーツパフェを口にした瞬間、ポクシーの表情はシビアなものに変わった。
「なぁ、中佐⋯⋯思念凶獣ルーナエルバードについて何か知ってるか?」
「!?」
直後、スプーンの動きを止めるB子⋯⋯
そして、両手をゆっくりとテーブルの上に置いた。
「思念凶獣は100年前に絶滅したはずやろ⋯⋯と、言いたいところやが、なんでそんな話を聞く?まさか、例の噂を信じておるのか?」
思念凶獣は⋯⋯かつて、このトトバースの至るところに存在していた、人を喰らう害獣として恐れられていたものである。
ポクシーは口元で両手を組みながら、こんな話をして来た⋯⋯
「しかし、魔法の力で召喚することができるらしい⋯⋯このヲティスタンの空ではルーナエルバードの目撃が絶えない。実際⋯⋯」
「実際なんや?」
「俺の僚機、相棒のサイポンも見たことがあると言っている」
「急激なGがかかったことによる一時的なせん妄が原因やないか?」
「ちがう、平常飛行時での話だ」
「⋯⋯」
思念凶獣ルーナエルバード⋯⋯それは思念凶獣の中でも別格だった。
思念凶獣の大半は歩行タイプで、中には飛行タイプも存在しているが、その多くは地上付近での生息となる。いずれも体長はどんなに大きいものでも3~4m程度と言われている。
しかし⋯⋯
上空数千メートルの場所を常に飛び続け、翼を広げた幅は1km近くにも及ぶとされている。近づくものは容赦なく撃墜する。
それが思念凶獣ルーナエルバードである。エルフ族の魔法から召喚された存在だとか何だとかの伝説はあるが、真偽の程は不明である。