Episode 10 私怨との葛藤
ヤマダハル首相官邸⋯⋯
ヒルダは執務室の机の上で顎を付き、暇そうに過ごしていた。時折、噛んでいた風船ガムを膨らませて遊ぶ。
間もなく、形だけの定例報告会議の時間だ⋯⋯
「姫!ヒルダ姫!間もなく会議の時間です!急いでください」
「なんか怠いけど行くか」
秘書官に促され、重い腰を上げて会議室へ向かう。
会議室に入ると、すでに主要な閣僚や各省庁の高官らが待機していた。しかし、いつもと何か雰囲気が違っていた。
「あら、今日は何か特別なことでもあるのかしら?」
ヒルダは自席に付くと、目の前に置かれていた報告書をパラパラとめくり中を確認している⋯ふりをする。
軍の高官が細い目になり、ヒルダにこう告げる⋯⋯
「姫、ヲティスレ軍が勢いを増しています」
「それで?」
「このままだと本格的な内戦になります。先日はガ島から空母打撃群もやってきましたし⋯⋯NATTOが独断で行動を開始するかもしれません」
「私が曖昧な態度を取り続けるから?頼りないお飾りの首相でダメだと?そう言いたいの?」
しばしの沈黙の後、軍の高官は言った⋯⋯
「先の革命で⋯⋯お怨みになる気持ちはわかります。我々軍を信用できないと言われても致し方ありません。でも、今は私情や私怨は抜きにしてもらえませんか?こうしている間もヲティスレ難民が発生しております」
ヲティスレとは⋯⋯
ヲティスタン共和国の美称である。
ヲティ(見守りの目)によりスレ(安楽の境地)を、地上民に与えたもうた大神SUDの神話に由来する言葉である。この話が一体なんのことかワケワカメになった人は、正常な頭の持ち主なので安心して欲しい。
ヒルダは席から立ち上がると⋯⋯
泣き叫ぶように大声で軍の高官を罵倒し始めた。
「私はお父様のような力を持っていない!!そのお父様を殺したのはお前ら軍だろう!!ヲティスレ軍ならもうNATTOに任せろ!!」
しんと静まり返る会議室⋯⋯
ヒルダは怒りながら執務室へ戻って行ってしまった。ハンカチで汗を拭う軍の高官。
「先日もエルフの神殿が襲撃された⋯⋯ヲティスレ軍は首都の間近にまで迫って来ていると言うのに⋯⋯」
同席の内務官僚もそうつぶやいた⋯⋯