Episode 05 エルフ族の処断
ヤマダハル郊外に荘厳な神殿があった。
黒いローブを頭から被った女性が、神殿の階段を小走りで駆け上がる。隙間からは尖った耳が出ていたので⋯⋯まぁ、トットフォーだろう。
神殿の入口に辿り着くと、衛兵から身体と所持品の検査を受ける。衛兵と言っても自分と同じエルフの女性である。
「これは何ですか?」
「護身用で持ち歩いているものよ」
「ヲティスタンの法律でこれは持てないはずですよね⋯⋯」
「あら、私を外(ヲティスタン)の警察にでも引き渡すのかしら?」
「⋯⋯」
「神殿内部は治外法権よね?」
「お帰りなるまでこちらで預からせてもらいます」
ここはトトバースにおけるエルフ族の本拠地となる神殿で、その長であるイワナ・マーヤの居城でもあった。この神殿は国を持たないエルフ族たちの聖地であり心の拠り所だった。
神殿内部はいわばバチカン市国みたいなものだ。
トットフォーは所持していた拳銃を衛兵に預けると奥へ向かう⋯⋯
玉座でマーヤがうたた寝をしていた。
彼女の頭上から柔らかな暖かい光が降り注いでいた。トットフォーの気配に気づき目を覚ます。
「あら、フォーちゃん。いらっしゃい。待っていたわよ」
「今日はどのようなご用件でお呼びで?」
「単刀直入に言うわ。爆弾テロを仕組んだのはあなたよね?」
「⋯⋯」
マーヤはおもむろに立ち上がり、壇上から降りて、トットフォーのところへ近づいて来た。その表情は、優しさと悲しさの両方で入り混じっていた。
うれしいのか⋯悲しいのか⋯⋯
マーヤは両手でトットフォーの頬をやさしく包み込む。一方、トットフォーは微動だにせず、マーヤを睨みつけるように見つめ続けていた。
「私たち国を持たない民の怒りよ」
トットフォーはそうマーヤに言い放った。直後、マーヤは両手をだらんと下し、涙を流し始めた。
そして、次の瞬間⋯⋯
ぶす☆
「えっ?」
「ごめんなさい!もう、こうするしかないの!」
トットフォーは腹部に妙な違和感を感じて、とっさに手で抑える。そして、その手をゆっくり持ち上げてみる⋯⋯
「なんじゃこりゃあああああ!」
マーヤの両手には短剣が握りしめられていた。