第95話 タルパ消失
父の予約したレストランで、新しい母、玉と対面する穂都⋯⋯
「はじめまして、穂都ちゃん」
「は、はじめまして⋯⋯」
「お洋服、気に入ってくれたかしら」
「は、はい。ありがとうございます」
「そんなに畏まらなくてもいいのよ。ありがとうでいいのよ。私はあなたのお母さんになる人なんだから」
気がつくと、両肩に力の入っていた穂都⋯⋯
二人の会話にやきもきする父。
場の空気を盛り上げようと、いろいろと話題を切り出す。そして、最後にとっておきの話を明かして来た。
「穂都、父さんの今の仕事なんだが⋯⋯やめるよ」
「!!」
「実は⋯⋯自動車の中古車販売会社の役員に抜擢されたんだ。玉さんとの結婚を機に心を入れ替えるよ。金貸しはやめだ。今まで穂都に嫌な思いや辛い思いをさせて本当にすまなかった」
「ほ、本当に?」
「ああ、これから多くの人を幸せにする仕事をするよ!これからは三人で頑張ろう!玉さんもよろしくな!」
穂都は父の思わぬ話に大粒の涙をこぼし始めた。玉もそれを見て、目をハンカチで抑えずにはいられなかった。
だがしかし⋯⋯
わずか数年後、除草剤で有名になる会社になろうとは⋯⋯現時点で父、穂積ですら知る由もなかったのであった。まぁ、なんやかんや、そうしてディナータイムはあっと言う間に過ぎ去っていった。
とりあえず、今日のところは、穂積と穂都は自宅へ⋯⋯玉はまだ仕事が残っているので、住み込み先の議員宅へ戻ることにした。
別れ際、穂都は玉から強く抱きしめられる。
「エシャロットのお陰だわ⋯⋯」
穂都は帰路の車中、そう呟いた。
自宅へ着いたら、エシャロットにすぐに報告してお礼を伝えよう⋯⋯穂都はそう決めていた。
しかし⋯⋯
自宅に到着すると、エシャロットの姿はどこに見当たらなかった。
「エシャロット!どこ?」
穂都は自宅中を探し回る。
その様子を見た父がどうしたのかと尋ねる。
穂都は咄嗟に⋯⋯鞄に付けてあったキーホルダーを失くし、探していたと誤魔化した。
エシャロットが夜外出することは、以前、何回かあった⋯⋯
「朝に帰って来るのかな⋯⋯」
妙な胸騒ぎを覚える穂都であった。