第76話 親友

投稿日 2024.02.27 更新日 2024.02.27

 公園内はセミの鳴き声でいっぱいだった。

 浮島はベンチの上で汗を拭きながら、親友との久々の対話を楽しんだ。

「アレは本当に笑えたね」

《あはは、アレに参加していた連中⋯⋯今頃、どうしているだろうね》

 アレとは⋯⋯

 もちろん、タルパ戦争のことである。

 それはともかく、浮島は再度本題を切り出す。それに対して、戸惑いを隠せない木口⋯⋯数秒間の沈黙が続いた後、木口は断ることにした。

 理由は自身は性格的に自衛隊に馴染めないだろうとのことだった。

 ただ、浮島もその点はよく理解していた。木口とは長い付き合いだ。彼の性格は十分に承知していた。

 そこで、自衛官としてではなく、表向き⋯⋯防衛省職員として採用できるよう、各所に根回しするとの提案をした。

「木口君、これならどうだろう?」

《区役所から防衛省へ転職かぁ⋯⋯》

「君には心霊探知や心霊防壁の研究開発の指揮をお願いしたい」

《電話だと何だから⋯⋯今後、直接会って話をしたい》

「わかった。そうしよう」

《自分は今の時期、忙しくないから⋯⋯定時後はほぼ毎日空いているよ》

「じゃ、今晩、シシルの占い館で会わないか?シシルも交えて話をしたい」

《わかった。時間は6時でいいかな?》

「頼む」

 浮島は切電する。

 いや⋯⋯

 切電した振りをして、端末ロックをかけ、画面を消灯させる。そうして、スマホの画面を鏡代わりにするよう、自分の背後の様子を確認した。

 だらしなく⋯⋯ベンチを浅く座っていたのは、こうして背後を映し出しやすくするためだった。

「⋯⋯」

 浮島の真後ろにあった街路樹の陰から、浮島を睨む男がいるのを確認した。そう、公安の更梨である。

 さらに、道路を隔てるよう、向かいの歩道の街路樹の陰にも一人いることを確認した。恐らく、海外の敵対勢力の関係者だろう。

 浮島は不敵な笑みを浮かべる⋯⋯

「公安と⋯⋯中共だか露助だか知らないが⋯⋯ちょっと、遊んでやるか」

 浮島はベンチから立ち上がると、公園内のトイレに入った。そして、大きい方の中へ閉じ籠った。別に便意をもよおした訳ではない。

 公共の場で、自身の能力を発揮する訳にはいかなかったからだ⋯⋯