第76話 親友
公園内はセミの鳴き声でいっぱいだった。
浮島はベンチの上で汗を拭きながら、親友との久々の対話を楽しんだ。
「アレは本当に笑えたね」
《あはは、アレに参加していた連中⋯⋯今頃、どうしているだろうね》
アレとは⋯⋯
もちろん、タルパ戦争のことである。
それはともかく、浮島は再度本題を切り出す。それに対して、戸惑いを隠せない木口⋯⋯数秒間の沈黙が続いた後、木口は断ることにした。
理由は自身は性格的に自衛隊に馴染めないだろうとのことだった。
ただ、浮島もその点はよく理解していた。木口とは長い付き合いだ。彼の性格は十分に承知していた。
そこで、自衛官としてではなく、表向き⋯⋯防衛省職員として採用できるよう、各所に根回しするとの提案をした。
「木口君、これならどうだろう?」
《区役所から防衛省へ転職かぁ⋯⋯》
「君には心霊探知や心霊防壁の研究開発の指揮をお願いしたい」
《電話だと何だから⋯⋯今後、直接会って話をしたい》
「わかった。そうしよう」
《自分は今の時期、忙しくないから⋯⋯定時後はほぼ毎日空いているよ》
「じゃ、今晩、シシルの占い館で会わないか?シシルも交えて話をしたい」
《わかった。時間は6時でいいかな?》
「頼む」
浮島は切電する。
いや⋯⋯
切電した振りをして、端末ロックをかけ、画面を消灯させる。そうして、スマホの画面を鏡代わりにするよう、自分の背後の様子を確認した。
だらしなく⋯⋯ベンチを浅く座っていたのは、こうして背後を映し出しやすくするためだった。
「⋯⋯」
浮島の真後ろにあった街路樹の陰から、浮島を睨む男がいるのを確認した。そう、公安の更梨である。
さらに、道路を隔てるよう、向かいの歩道の街路樹の陰にも一人いることを確認した。恐らく、海外の敵対勢力の関係者だろう。
浮島は不敵な笑みを浮かべる⋯⋯
「公安と⋯⋯中共だか露助だか知らないが⋯⋯ちょっと、遊んでやるか」
浮島はベンチから立ち上がると、公園内のトイレに入った。そして、大きい方の中へ閉じ籠った。別に便意をもよおした訳ではない。
公共の場で、自身の能力を発揮する訳にはいかなかったからだ⋯⋯