第75話 夏草や兵どもが夢の跡
浮島の計画はこうだ⋯⋯
まず、木口がダイブ中、自身のタルパが暴走してしまい、ダイブ界から意識を解放することができなくなってしまうところから始まる。
もちろん、これは浮島が考えたシナリオによる木口の狂言だ。
そして、浮島がそれをSNSで拡散する⋯⋯
木口のタルパは非常に強力で、単独での封じ込めは難しいと訴え、共有ダイブによる木口救出作戦を提案する。
そうして⋯⋯
多くのタルパーが加勢と称して集まり、木口の暴走したタルパの鎮圧作戦が開始される。それは真夏の週末の深夜に執り行われ、全国から浮島の呼びかけに応じた者が参加した。
それらはすべてSkypeを通じて行われ、浮島が参加者らを催眠誘導した。その様子はSNSでも実況中継された。
しかし、浮島と木口らの想像の斜め上を行く⋯⋯
とてつもなく、見苦しいあり様となり、タルパ界隈におけるダイブの実態があからさまとなった。
ある者は、暴走したタルパに対して、北斗百裂拳を繰り出し⋯⋯またある者は、ペガサス流星拳をお見舞いしたらしい。
中には、筋肉バスターをお見舞いしたと豪語する者まで現れ⋯⋯さらに、新幹線になりきって、電車拳を木口のタルパに対して突進させたとホラを吹く者まで現れたのだ。
途中、参加者の一人が鼻血を出す。
あと、実にどうでもいい話であるが⋯⋯
巨大UFOまで現れたと主張する者まで出た始末である。
なんと、そいつは⋯⋯
木口のタルパの正体はかぐや姫だと主張して譲らず、他の参加者らと言い合いになり、喧嘩まで始めた。ちなみに⋯⋯それが後に、木口のタルパの正体は、宇宙由来の思念体であると噂される原因となったようだ。
まぁ、頃合いだと判断した浮島は、木口にダイブ界脱出を演じるように指示を出した。それを見た参加者らは、皆一様に作戦成功と歓喜した。
ただ、細い目になる浮島と木口の二人⋯⋯
翌日、浮島の口から衝撃的な内容が吐露された。
「あのさ、みんな。木口君のタルパ暴走の件⋯⋯ただの作り話だから」
そして、タルパ界隈に激震が走る⋯⋯
共有ダイブに参加していた者たちは、全員、蜘蛛の子を散らすよう消え失せた。これがタルパ戦争の真実である。