第70話 世界が動き出す時
日本周辺を巡る情勢は、年々、緊張を増していた⋯⋯
特に中国とロシアの動きが顕著なものとなっていた。それは現実の領海や領空に対する侵犯行為のみならず⋯⋯霊界を経由する形でも行われていた。
中国は心霊気功なるタルパ錬成術を開発していたのだ。
日本のタルパ界隈で一時期流行っていた「遠距離通訳」をヒントに開発されたもので、狙いを定めた遠隔地にタルパを出現させ、敵国の兵士に対して精神的な攻撃を行うというものだった。ある程度の物理干渉も可能である。
一方、ロシアでは超能力と併用したダイブ術が開発されていた。
やはり、これも日本のタルパ界隈で静かなブームとなっていた「ダイブ界」をヒントに開発されたもので、この世とあの世を自由自在に行き来できる技となる。つまり、あの世を経由する形で神出鬼没な戦法が可能となる。
実に恐ろしいものであった。
日本は知らず知らずのうちに、国内の至る所で中ロの霊的侵入を許していたのだ。それに強い危機感を覚えた防衛省がある部隊を発足させた。
浮島一尉の指揮する対超常現象特殊作戦群である。
二十代の一尉が⋯⋯一つの作戦群の指揮を任されるのは異例である。それほどまでに、浮島の霊能力は尋常ならざるものと評価されていたのだ。
浮島は⋯⋯
学生時代は大学でオカルト研究会を主催し、多くの信者のようなファンも獲得していた。そして、あのタルパ戦争の首謀者である。
日本のオカルト・スピリチュアル界に大きな衝撃を与えた人物でもあった。未だに彼を怨む者は少なくない⋯⋯
まぁ、その後⋯⋯
浮島の能力に目を付けた政府が、浮島を自衛隊の幹部としてスカウトしたのだ。防大出身の幹部を横目に着々と成果も上げて行った。
「あ、もしもし、木口君?元気にしていた?」
《浮島さん?お、お久しぶりです!》
浮島は調査を終えると、住宅地内にあった公園でしばし休憩をしていた。やはり、気を張り続けていると心身ともに疲労度も増す⋯⋯
ベンチに座り、学生時代のサークル仲間に電話をする。
「こちらは⋯⋯いろいろ、大変だよ。人手が足らない。どうだろう?俺と一緒にやらないか?木口君の能力が必要なんだ」
浮島は霊能力に長けていたサークル仲間の勧誘を始めた。