第60話 陰陽師
ここは東京の市ヶ谷にある防衛省の一室⋯⋯
何かの作戦指令室らしい。
「豊島区付近で強力な念力発生を確認!」
オペレータの緊迫した声が響き渡る。
「これは⋯⋯通常の心霊現象を遥かに超えた力だね」
オペレータの後ろに立ち、観測モニタを確認した一人の青年士官が、腕を組みながら、何かを考え始める。
男の名は、浮島譲司⋯⋯
陸上自衛隊の対超常現象特殊作戦群の作戦指揮官である。
対超常現象特殊作戦群とは⋯⋯
超能力や霊能力を持った自衛隊員から構成された組織である。浮島も京都の名だたる大社を出自とした陰陽師である。
当然、その性質上、公にできない非公式の組織となるため、予算も限られていた。日当たりの悪い一室を当てがわれて、細々と活動を続けていた。
「どうやら⋯⋯対外的な⋯⋯霊的な工作活動の可能性がありそうです」
「そのまま監視を続けてくれ」
「一尉、万が一の際は⋯⋯どうしますか?」
「もちろん、やるさ!とりあえず、その近くに頼りになる協力者がいるんだ。先にそっちから当たって見ることにする」
浮島はオペレータにそう告げると、自席へ戻り、スマホを取り出すと、電話をかけ始めた。
「もしもし、シシルかい?ちょっと、気になる⋯⋯そうか、そっちもか」
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同じ頃、池袋の占い館の一室で、スマホを片手に持ちながら、水晶球を見つめる女がいた。成吉シシルだ。
「私もさっき感じたわ⋯⋯強力な念力ね。大手町の首塚を凌ぐわ」
シシルは水晶球に映し出されるビジョンをより鮮明にするため、全身全霊となり己の念を集中させた。すると⋯⋯
「やだ!あの子のところだわ!」
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浮島は電話を切ると、深いため息をついた。
「内偵の必要があるかもしれないな⋯⋯」
しかし、常に予算と人員の限られた組織だ。今回は浮島自ら動くにことに決めた。今も全国で数少ない部隊の仲間たちが作戦行動中である。
「私がこれから現場へ直接調査に行く」
浮島はオペレータに留守を頼むと、私服に着替えて庁舎を出た。
対超常現象特殊作戦群のメンバーは、普通の超能力者や霊能者ではない。全員、レンジャー資格も持った選りすぐりだった。