第53話 沈黙しない艦隊
C子は水雷へ命令を下す。
「1番、ちょっと特殊な音響魚雷を装填!」
直後、発射管室で指示された魚雷がラックから降ろされ、数秒後には、発射管への装填が終わり、ハッチが閉められた。
「よっしゃ!データ入力!今回はドリフのネタで行く!」
通常、音響魚雷というものは⋯⋯
標的から発せられる特異な音や、ソナーなどを使用して自動追尾するものであるが⋯⋯ちょっと特殊な音響魚雷は、単に大音量で録音した音を鳴らしながら海中を走る、環境にも優しい非殺傷兵器だった。
「さて、笑うことを禁じられたユセリアの兵士諸君⋯ギャグをお見舞いする」
不敵な笑みを浮かべるC子⋯⋯
ユセリア社会主義共和国連邦は恐ろしい国だった。
共産趣味党による一党独裁国家で、笑った者は問答無用で死刑になる国として恐れられていた。
まぁ、ただ、その点を除けば⋯⋯
実に住みやすい国だった。
一般国民の一日の労働時間は5時間までと定められており、働かない者も必要最低限の衣食住が保障されていた。でも、笑ったら即死刑。
人は不思議な生き物である。
絶対に笑うなと言われてしまうと⋯どういう訳か、どんなにつまらないギャグでも⋯⋯何故か我慢ができなくなり、笑いたくなるらしい。
ちょっと特殊な音響魚雷は、それを逆手に取った戦法である。大音量でドリフのコントを海中で垂れ流す作戦だ。
ちょっと特殊な音響魚雷は、標的の下にまで来ると⋯⋯コバンザメのように相手の船底近くを滞留するように追尾し続ける。そして、船底から船内へ音を響き渡らせる。そんな意地悪な原理をしたものだった。
「前回は大音量〇ロボイスに狼狽するユセリア兵士どもを見て痛快やったな。あいつらはギャグだけでなくそういうもんにも弱い」
「今回はドリフのコントですからね!」
ランカがちょっとふくれっ面になり意見する。
「なはははははは!」
「艦長!声大きいです!相手のソナーに検知されます!」
航海長も困った顔で意見した。
直後、C子はマイクを握ると、真剣な表情に変わった。
「よし、1番発射ぁ!」
そして、相手にとって迷惑この上ないものが⋯⋯はまぐりから放たれた。
「惚気島は我が国のもんや⋯⋯」