第36話 運命の交錯
壁際は段ボール箱が積み上げられ、倉庫とも似ても似つかない場所で、南難との面談は始まった。
「あなたが岩鉄の娘さんか⋯⋯」
「俺の娘で良ければ採用してくれないか?」
「もちろんだよ!募集をかけてもなかなか人が来なくてねぇ」
アメリカの投資銀行ピーマン・ブラジャーズの倒産から早数年、世界経済は完全に回復していた。
就職市場も売り手市場となっていたのだ。
「あとは千夏さん次第だよ」
そう、南難が告げると、岩鉄は千夏に睨みを利かせる。
「ほら、どうした、礼を言わんか!」
「あ、ありがとうございます!」
キョドる千夏⋯⋯
「ところで、千夏さんは将来、結婚するならどんな男性が理想ですかな?」
「お、お父⋯⋯」
「なるほど!岩鉄みたいな男性ですか!ははは」
「お父さんみたいな人じゃない人です!」
直後、南難は硬直して、岩鉄は飲みかけのお茶を噴く⋯⋯
「ははは、たしかに、岩鉄は真っ直ぐな男だから⋯女子たちの間で好みが分かれていましたよ」
気まずい空気をどうにかしようと、南難は高校時代の思い出話を始めた。
豈井岩鉄と南難茂夫の二人は⋯⋯
伝説の不良エリート校、凸都館高校の双璧として名を馳せていた。二人は一人の女番長、通称エシャロットを巡り、ケンカしたこともあったらしい。
昔話に花を咲かせる中年おやじ共。それを横から仏面で聞く千夏⋯⋯
「そう言えば⋯⋯もうすぐ、エシャロットの命日だったな」
「今度、二人で墓参りに行くか!」
「生まれ変わったら誰かの守護神になるだなんて言っていたけど⋯⋯」
「彼女らしいよな。ははは」
このエシャロットと呼ばれた女番長は⋯⋯
若くしてガンで亡くなっていたのだ。死の直前、見舞いに来た岩熱と茂夫、凸都館同級生ら一同、号泣したらしい。
父の知らなかった一面に驚く千夏。
ちなみに、エシャロットが亡くなった同じ病院の同じ時間帯に、この物語のある人物がこの世に生を受ける。
「元気な女の子の赤ちゃんですよ~!」
看護師に抱きかかえられた赤子を受け取る男性がいた。男性はベットで安静にしている妻に向かってこう言った⋯⋯
「この子の名前は穂都にしよう!」