第34話 進路指導
終業式も終わり、夏休みに入ったと言うのに⋯⋯
進路希望調査票の書き直しを命じられ、急遽、登校するはめとなった夕菜。それにしても、昨晩の夢が気になる。
「最後のあの女の子の言った意味⋯⋯なんなんだろう」
正面玄関は閉じられているため、裏手の職員玄関から校内へ入る。職員玄関を上がれば、職員室はすぐそこだ。しかし、職員室の中を覗くと、折原の姿はどこにも見当たらなかった。
夕菜の姿に気づいた教頭が声をかけてきた。
「おや、君は折原先生のクラスの子だよね?今日はどうしたんだい?」
「はい、進路希望調査票の書き直しを指示されて持って来ました」
「そっか、折原先生は今、昼休み中。屋上にいるよ!」
「ありがとうございます!」
屋上へかけ上げる夕菜。
もう、面倒事はさっさと済ませて帰りたかった。屋上に出ると、折原が手すりにもたれ、下界の様子を眺めていた。
「先生!折原先生!」
「おう、御前賀か⋯⋯持って来たか?それか?見せろ」
調査票を見つめる折原⋯⋯
しかし、徐々に不満そうな表情へ変わって行く。
「通学時間をなくして勉学に集中するため⋯⋯前と何が違うんだ。コレ?」
「え~あ~やっぱ、ダメ⋯⋯でしょうか?」
「お前の成績なら立教大学に受かる見込みは十分ある⋯しかし、本当に今のままでいいのか?」
「すみません。具体的にやりたいと思う事がなくて⋯⋯」
「何それ、若いのにつまんねぇーな」
「じゃ~先生は高校生の時は何になりたかったんですか?もう、国語の教師と決めていたんですか?」
「俺か?聞いて驚くな。俺はなぁ⋯⋯」
:
結局、調査票の再提出は、夏休み明けで良いから、休みの間にしっかり将来のことを考えておけと言われ解放された。
しかし、折原の高校生時代の思い出話を聞かされ⋯⋯屋上から一階へ向かうまでの間の階段で、笑い転げそうになる夕菜。
「ぷっ、子供みたい⋯⋯くすくす」
夏休みの校内は本当に静寂に包まれていた。吹奏楽部の練習音と、野球部員の無駄に大きい声だけが鳴り響く⋯⋯
「夕菜ちゃん!」
突然、自分を呼ぶ声がして驚く夕菜。
幼稚園児のような小さな男の子の可愛らしい声だった。