第25話 父と娘のスキンシップの果てに
岩鉄は娘、千夏にヘッドロックを噛ますと⋯⋯手加減することなく、そのままパソコンデスクに叩きつけた。
床の上で、前頭部を両手で押さえながら、のたうち回る千夏⋯⋯
「今すぐ、学校の就職課に行って来なさい!」
岩鉄はそう怒鳴りつけると、千夏の部屋から立ち去り、ドアを勢い良く閉めた。しかし、千夏の自宅は祖父母の代からのもので、築50年にもなるオンボロだった。衝撃でドアが外れたのだろうか⋯⋯
今度は、床の上で横たわっていた千夏に目がけ、ドアが倒れて来た。
「痛っ!!!!」
次の瞬間、一階の台所にいた母、智恵の声が鳴り響く。
「千夏!ご近所に迷惑よ!静かになさい!」
「私は悪くない⋯⋯シクシク」
とりあえず、今から学校の就職課へ向かうべく着替えをする。
千夏はまったくと言っていい程、就職活動をしていなかった。しびれを切らせた短大の就職課から、一回顔を出すよう催促されたのだ。
千夏は自宅最寄駅から二駅先にある短大に通っていた。そんなに遠くもないのに、前期試験も終わり、もうすぐ夏休みだからと⋯⋯
まぁ、そんな感じに怠惰な生活を始めた。
「あーおでこが痛いよー」
とりあえず、電車に乗り込み、座席に座ると、スマホを取り出した。
「リンダ⋯⋯燃やしてやる!」
早速、例の掲示板へアクセスして罵詈雑言の書き込み開始である。千夏の目つきと表情が徐々に変わり始める⋯⋯
「我は信長様の命を受け、世直しをするものなりぃいいい!」
千夏は憑依と称し、人格交代させることが⋯⋯
自分にはできると素で信じていた。
森蘭丸
ネット上における彼女のハンドルネームである。
いや、厳密は⋯⋯
自分のタルパらしい。
そう、現在、千夏は歴史的英雄と知られる森蘭丸になりきっているのだ。森蘭丸以外にも、沖田総司や牛若丸にもなることもあるらしい。
そうこうしているうちに、短大の最寄り駅に到着した。
「おのれぇえええ!リンダ!消えろ!やめろ!」
プシュー(ドアが閉まりかける音がなる)
「あっ!」
憑依に夢中になっていた千夏は、慌てて降りようとする。この直後、彼女の身に二度目⋯⋯いや、三度目の悲劇が襲う。