第24話 憑依
違うだろ!!
パソコンの画面に向かって絶叫する女がいた。
彼女の名は、豈井千夏⋯⋯
液晶モニタを両手で力強く掴み、画面に映し出されていたものに凄むように迫る。顔との距離はわずか数cmである。
「こんなのタルパじゃない!こいつも偽物だ!」
画面に映し出されていたものは、リンダと言う著名タルパのXだった。怒りに震える彼女は、巨大掲示板「たらばがに」オカルト板にあったタルパ界隈ヲチスレにアクセスする。
「リンダうざい、消えろ⋯と」
投稿フォームにそう入力すると、投稿ボタンをクリックした。今日はこれで十数回目の投稿となる。
すると、今度はスマホを取り出し⋯⋯
「禿同、リンダうざいよね⋯と」
先ほどパソコンから投稿した自分の書き込みに対してレスを付ける。いわゆる、自作自演である。
それにしても⋯⋯
何か彼女をそうさせているか?
次の瞬間、彼女の声質が、男性のような異様に低いものへ変わる。まるで、何かに憑依でもされたかのように⋯⋯
「そうだ、こいつはタルパじゃない。燃やせ!燃やせぇえええ!」
不敵な笑みを浮かべ、誹謗中傷と自作自演を続ける。
「いたっ!」
直後、ものすごく乾いた音が、彼女の後頭部で鳴り響いた。後ろを振り向くと、彼女の父である岩鉄が立っていた。
「お前!何やってんだ!」
「いたっ!」
今度は前頭部を思いっきり引っぱたかれた。
「ちょっと!人の部屋に入る時はノックしてからにしてよ!」
「さっきから何度もしてたわ!」
掲示板に夢中になるあまり、背後に父が立っていた事に気づかなった。
すると、岩鉄は千夏の首を締め上げるように持ち上げ、前後に揺さぶりながら問い質す。
「お前!就職活動はどうした?」
「ちゃんとやってる!」
「ウソつけ!さっき、学校から連絡来たぞ!」
千夏は短大に通う学生であったが、二年の後半であるにも関わらず、就職活動をろくすっぽしていなかった。
毎日、自室に閉じ籠り、ネットとゲームの生活であった。
「今、ネットで調べていたのぉ」
「ほう、俺には掲示板で遊んでいたようにしか見えんな」
岩鉄の怒りはヒートアップした。